2017年11月7日火曜日

暗殺教室(漫画) - "Assassination Classroom" as comic book.




暗殺教室

世界一奇妙な授業が今、始まる──


暗殺教室」(あんさつきょうしつ)は、松井優征(まつい・ゆうせい)による漫画である。

週刊少年ジャンプに2012年31号から連載された。単行本は全21巻が刊行されている。

暗殺教室は、2010年代前半の漫画界を代表する大ヒット作品である。単行本の累計発行部数は2016年現在で2,000万部を突破し、アニメ化、映画化、そしてゲーム化もされた。

有名進学校の椚ヶ丘(くぬぎがおか)中学校。落ちこぼれが集まる3年E組に新たな担任として赴任してきたのは、月の7割方を蒸発させ、マッハ20で空を飛び、来年の3月には地球を破壊すると予告する、タコの形をした謎の超生物だった。人知を超えた能力を持つその生物の暗殺を、各国首脳はやむなく3年E組の生徒たちに委ねる。成功報酬額は100億円。はたして生徒たちはこの超生物、通称“殺(ころ)せんせー”を卒業までに倒すことができるのか?

謎だらけの設定で始まる。しかも第1話の冒頭は、教室で出席を取る先生相手に、生徒が一斉に銃を突きつける場面から始まる。

題名が「暗殺教室」という穏やかでない語感であり、設定もあらすじも意味不明なので、確実に誤解を招く作品だと個人的には思う。漫画雑誌の中でもっとも競争が激しいあの少年ジャンプにおいて、作者は一体どんなプレゼンを経て連載の機会を得たのだろうと、少しだけ気になる。



異色の青春群像劇


話のメインとなる3年E組の生徒たちは、いずれも成績や素行が不良の落ちこぼれだ。この作品は彼らの中学校生活最後の1年をすくいあげ、彼らの挫折や成長を、修学旅行や学園祭の行事やテストをまじえ、四季を通じて、丹念に描いていく。殺せんせーは生徒たちの得意分野も不得意分野もプライベートも、遊びも学問も何もかも、あらゆることに精通している。一方で彼らの傷つきやすい胸の内を察して共感するすべも持ち合わせている。やがて彼らの成績をアップさせるだけでなく、自信をも付けさせ、未来へと羽ばたかせていく。

落ちこぼれ集団がひとつの目標に向かって努力し成長していく青春群像劇、それ自体は決して珍しいものではない。この作品は、落ちこぼれ集団の目標を「担任教師を暗殺する」「暗殺者は生徒たち」とすることで一貫している。しかし血なまぐささが一切なく、さわやかな印象や時には教訓めいた結末さえ残す、異色の学園物語である。

殺せんせーの過去は、話の中盤で明かされる。殺人スキルの圧倒的高さゆえ「死神」と呼ばれた殺し屋の青年が、ただひとり出会い心を許した女性に目の前で死なれ、そこで初めて人としての絆に目覚めて生まれ変わり、異形の超生物になったといういきさつである。月の7割方が蒸発した理由も、3年E組の担任となった過程も、来年の3月には地球を破壊すると予告した理由もここで語られる。殺せんせーの正体という巨大な伏線が回収された瞬間に、「それでも生徒たちは、担任教師を殺せるか?」という巧妙に隠されていた命題が、生徒たちにそして読者に改めて提起される。

この作品で印象的なのは、「殺す」という言葉について、何度も何度も使われてはいるが、行為そのものについては決して軽くも甘くも考えていないことだ。作中の登場人物のひとり、殺し屋でありながら生徒たちの英語教師を受け持つことになるスラブ系美女は、同僚としての体育教師(本業は防衛省の男性自衛官)に、殺すってどういう事か 本当にわかってる? と問いかける(単行本9巻104頁)。彼女は民族紛争が悪化する国に生まれ、親を殺した敵兵を撃ち、その後も死体と血にまみれながら生き抜いてきた過去を持つ。

殺すってどういう事か 本当にわかってる? ──この問いかけに対する、この作品なりの結論や、殺せんせーの最期がどうなるかは、ぜひ本編をご覧になりお確かめいただきたい。

物語は卒業式を終え、3年E組の生徒たちや関わった様々な人々が、それぞれの未来へ向かうところで終わる。生徒の一人、主役の潮田渚(しおた・なぎさ)が、教育実習生として荒くれ者の生徒たち相手に日々頑張る姿で大団円を迎える。


作者の手腕。


単行本の最終巻によせて、作者はあとがき(単行本23巻148-149頁)で次のように述べている。


連載が決まったとき、最重要課題に考えたのは
「商品として成立した作品を送り出したい」という事でした。
自分の能力に可能な限りの範囲で、本を買って頂く方に対して
責任を持って始め、責任を持って盛り上げ、何よりも
責任を持って終わらせるという事を、(中略)
ぜひやってみたかったのです。

そのために、最初の三話を始めとして1、2、3、7、10巻用の
ストーリープランを作り、どの段階でも極力責任ある終わり方が
迎えられるように備えました。


「暗殺教室」でも、作者はもしかして、人気がいまいちだったらここで話を区切るつもりだったのかな、と思う箇所はいくつかある。

一方で、全21巻に渡る本編の全てが、謎もブラックジョークも重苦しい場面もちりばめながら、話の構成が非常に優れていて、考えさせられるセリフや場面も多く、そして非常に読みやすく、相当考え抜いているのが伺える。道徳の優れた図書に与えられる「文部科学省特選」や「PTA推奨」みたいなステータスがあるとしたら、ふさわしいかもとさえ思う。

作中の人物の内、殺せんせーが唯一愛した女性が貫かれて絶命する場面は、不安定な構図や構成が意図的に連なるあたり、「内容に合わせて演出がよく考えられているが、小学生が読むには重い描写かもしれない」と胸が痛んだ。少年ジャンプで掲載する以上、子供の読者が読むだろうことも想定すると、設定も描写もこれが限界だろうなと思う部分は他にも少なからずある。作者は絶妙なバランス感覚で、よくぞ描き切ったと思う。

作者は、この作品の前に「魔人探偵脳噛(まじんたんてい のうがみ)ネウロ」という漫画を発表している。こちらも単行本は第23巻が刊行されているので、巻数からしてヒット作といえる。

「ネウロ」も「暗殺教室」も、単行本換算で20巻ほどで完結している。これまでの作品で見せた構成能力なら、50巻を超えるような大作も、あるいは短編でも、きっと魅了してくれるだろう。「暗殺教室」のような超絶ヒットの後では、期待も重圧もものすごいだろうけれど、作者の力量なら、きっと。

作画(いわゆるデッサン)はあいにく発展途上という印象を受けるが、今後もぜひ期待したい。


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